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no.014 ★★★IMオーストラリア完走記 2003.4.6 by Maverick

大阪からブリスベーン経由でシドニーまで空路11時間。さらにバスで4時間半北上すると、アイアンマン・オーストラリアが開催されるNSW州の小さなリゾート地、フォスター・タンカリーに到着する。フォスターが南側の町の名前で、タンカリーが橋を挟んだ北側の街の名前。東側の美しい海ではイルカが波乗りをし、西側には入り江が複雑に広がっていた。

当地は初秋だが、気候的には日本の4月に近い。晴れれば最高気温は20度少し。湿度が低いので、朝夕や日陰にいる時は冷える。また、「春に3日の晴れなし」の日本と同じく天気は変りやすく、よく雨も降った。

この大会には地元オーストラリアから約1400人。外国から約200人の参加者があった。日本人は20人。オージー達にとっては鍛えに鍛えて戦った、トライアスロン・シーズンの最後を飾るビッグイベント。平均完走タイム11時間35分の高速レース。それがアイアンマン・オーストラリアだ。

スイムスタートは6時15分。フォスターの街から7キロ程南にある内海のフォスター・キーがスタート地点だ。前夜雨が降ったようで芝生もバイクもしっとり濡れている。バイクにボトル等をセットしてから、会場近くを20分程ジョギングした。5時を過ぎ、ようやく夜が明け始めた。水温18度のアナウンス。水深は2メートル程度。塩辛い水の満ちた湖のような内海。片道約1キロのコースを2周回する。自主申告によるゾーンスタート。1時間10分を申告した人でも最も遅い6番目のゾーンだった。

 6時15分まであと10秒というところで、号砲が響いた。最初こそ混雑したが、少しすると大きな集団は前方に過ぎ去って行った。世界最悪と形容されるスイムバトルもこのゾーンには無い。僕はただリラックスして泳ぐだけだ。最初の折り返しでゴーグル越しに虹が見えた。これは良い前兆なのか。それとも暗い前途を暗示するのか。

マイペースで2周回して上がってみると1時間18分。泳ぎながら何度も考えたように、寒さ対策として、多少時間はかかっても、アームウオーマーとバイクグローブを着けてソックスも履いた。

スイムを上がってバイクコースは南へと向かう。コースの北側はフラットで路面状態も比較的良い。中央部は単調な直線が続き、風の影響を少し受ける。コースの南側では坂が何箇所か待ち受ける上に、路面状態が非常に悪い。穴ぼこだらけである。このコースを2周回。バイクスタートから25キロ程走ると南側の最初の折り返しに達する。コース上には折り返し点が3箇所あり、何回も先行する選手とすれ違うので、精神的にだれてしまうということはない。2つ目の折り返しを過ぎて、予想通り僕の後ろにはあまり選手が走っていないことが改めて確認出来た。大きな集団は20キロ近く先を行っているようだ。この頃から雨が降り出した。気温は全く上がって来ない。

イーブンペースを保ち1週目の折り返し地点、フォスターの町に帰って来た。85キロをほぼ3時間。まずは目標通りだ。気温が低いため、身体にもダメージは全く無い。だが、今になって振り返ってみれば、2週目に入って守りに入ってしまった。このまま走っても楽に6時間30分は切れると自分のペースを少し落として、ドラフティングにならないように気をつけながら前の選手のペースに合わせた。楽して引っ張ってもらおうという魂胆だ。この弱気の虫に、ケイデンス機能のついたサイクルコンピュータが拍車をかけた。いつの間にか、自分のスピード感を意識するより、90回転を維持することを目標としてしまっていた。

北側半分が曇りで、南側半分が雨のバイクコースをもう1周して帰って来ると、6時間45分を要していた。結構いい感じで走っていたつもりだったので、なぜそんなに時間が掛かってしまったのか、その時は全く分からなかった。バイク2周目でも、雨に霞む牧歌的風景を背に綺麗な虹が掛かっていた。それは何かやはり象徴めいたものであるように僕には感じられた。

ランコースはまず橋を渡って北側のタンカリーの町へ。折り返して約5キロで、ランスタート・ゴール地点に帰って来る。海のそばを走るのはここまで。そして今度はアップダウンのある市街地を南へたどり、折り返してまたゴール地点へと戻る16キロ強。これを2周回。これまで白人選手のランは遅いという印象があったのだが、オージー達は違う。もう風を切ってビュンビュン走っている。ほとんどの選手が少なくとも、キロ4分台で走っているのではないか。

オージー達にとってアイアンマン・オーストラリアはシーズンの最後を飾る大イベント。予選を勝ち抜き、練習を十分積んでこの大会に挑んでいることが、一緒に走ってみてすぐ理解出来た。彼らの持つ何もかもが僕とは違っているように思えた。積んできた練習の質も量も。運動能力もハートの火のつき方も。さらに、彼らは見知らぬ異邦人にもすごく優しい。「Good job」「Well done」「Keep going」。どこから声がかかるのかと思ったら、すれ違う選手の多くが僕に声をかけてくれる。彼らこそ自分を追い込んで苦しいだろうに。「おまえは本当に頑張っているのか」と何度も自問せずにはいられなかった。

なのに、なのに。僕はランニングにたっぷり5時間5分もかけてゴールを迎えた。スタートして13時間19分。もうとっぷりと日も暮れている。なのに、なのに。オージー達は、待っていてくれた。ゴール前、歓声がこだまする。暗闇の中にまぶしい光の溢れるゴールが見えた。前を行く選手の後姿がカクテル光線と闇の作り出す柔らかなカーテンに包み込まれた。タッチを求める手が左右からいくつもいくつも差し出される。「13時間もかかった選手のハイ・ファイヴが欲しいのかい?」僕のゼッケン番号がコールされた。名前が呼ばれる。歓声がそれを飲み込む。応援してくれる人たちにつられて、両手をたたきながらゴールしてしまった。充実した気持ちと満たされない思いとが複雑に交錯した。

アイアンマンオーストラリアの公式ホームページ
アイアンマンオーストラリアのコースマップ